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2025.05.142025.05.13
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かつて世界中で愛され、「スカイプする」という言葉まで生んだSkypeが、日本ではGW真っ只中の2025年5月5日についにその役目を終えました。このニュースは、単なるサービスの終了というよりも、激動のインターネット時代における栄枯盛衰の象徴のひとつと言える出来事でした。本記事では、Skypeの誕生からサービス終了に至るまでの歴史を解説します。

Skypeとは何だったのか?
Skypeは2003年にスウェーデンとエストニアの技術者によって開発されたインターネット通話ソフトです。P2P技術を活用し、当時としては革新的な無料音声通話やチャット機能を提供しました。2001年にはWinMX、2002年には日本でWinnyが誕生し、P2Pというテクノロジーが注目されていました。国際電話が6秒90円(KDDIを使った英国への通話の場合)と非常に高額だった時代において、Skypeは個人・ビジネス両方で爆発的に普及しました。
P2P技術について
SkypeやNapster(米国で誕生し、世界中で流行った音楽共有サービス)で一躍脚光を浴びた技術。日本では違法ファイルアップロードという偏った側面が強調されてしまいましたが、極めて画期的な技術でした。暗号通過で使われるブロックチェーン技術の基盤であり、SNSで使われている分散型の処理もP2P的な思想に基づいています。
栄光の時代(2003〜2011)
Skypeは当初、シンプルで使いやすく、低コストで高品質な通話ができることで急速に拡大しました。2005年には31億ドルでeBayが買収し、大きな注目を集めましたが、eBayとの統合はうまくいかず、2009年には大半の株式を手放します。
Microsoftによる買収と迷走(2011〜)
2011年、MicrosoftはSkypeを85億ドルで買収。当時MicrosoftはMSNメッセンジャーというアプリを展開しており、変革の一手としてSkypeを手に入れました。ここからSkypeはMSNメッセンジャー(Windows Live Messenger)と統合され、OfficeやOutlookとの連携も進められました。これらの連携はなかなかうまく進まず、ときには批判の対象となり、中途半端なユーザー体験しか提供できませんでした。
UIの変更やアカウント統合の混乱によりユーザーの不満が増加。さらにスマートフォン時代への対応が遅れ、WhatsApp、FacebookのMessenger、アジアではLINEやカカオトーク、Viberにシェアを奪われていきます。
Microsoftとモバイルスマートフォン時代
IT界の巨人であったMicrosoftはスマートフォンへの対応が非常に遅れた企業でした。2007年には最初のiPhoneが発売され(日本では未発売)、日本でも2008年にiPhone 3Gが登場すると、ソフトバンク専売で爆発的に普及します。同社はこの流れを読み切れずスマホ時代に乗り遅れます。
それでもMicrosoftはスマホ業界の覇者となる夢を描いでいました。Skypeはその鍵となるはずでした。2010年にWindows Phoneを発売し、Windowsと電話とSkypeが融合し、理想のスマートフォンが誕生する。iPhoneとMacがシンクロするように、Windows PhoneがWindowsの受け皿となるのは自然に思えました。しかし実際にそのポジションを取ったのはAndroidでした。Windows PhoneはiPhoneやAndroidのように魅力的な端末とユーザー体験を提供することができませんでした。
モバイルでは先行していたMicrosoft
Microsoftはモバイルに興味がない会社ではありませんでした。アップルがNewtonを作っていたように、1996年にはモバイル専用OSのWindows CEをリリースしています。使ったことがあればおわかりと思いますが、CEはWindowsをそのまま軽量化してモバイルに持ってきてタッチ操作に対応したものです。当時はそれでも画期的であり、PHSのH”(エッジ)のカードを刺してモバイル端末を使っているビジネスパーソンをよく目にしました。
一方で、CEはモバイルへの最適化が十分とは言えない代物でした。カシオのカシオペア、NECのMobile Gear、HPのJordanaなど一定の評価を受けたのはキーボード搭載&タッチペンのハンドヘルドPCタイプの機種であり、Newtonのようなキーボードを持たないPDAタイプは厳しいものがありました。
2003年にはモバイル機器に特化したバージョンであるWindows Mobileとなるも、中身はあまり変わらず。MS自身ではなくHTCなどのベンダー各社の工夫により、指での操作でも使いやすいUIのWindows Mobile端末が発売されましたが、iPhoneの登場ですべてが吹き飛んでしまいました。
Googleは買収を見送った
最終的にMicrosoftが買収したSkypeですが、実はGoogleも買収を検討していたと言われています。当時Google Voiceを開発していたGoogleは、eBayがSkypeを売却することを聞いて買収を検討したようです。CEOのエリック・シュミットは乗り気だったようですが、この頃のGoogleはすでにクラウド技術の研究・開発に取り組んでおり、P2Pを使ったSkypeは方針と合わないと判断したようです。
モバイル&SNS時代に取り残される(2010年代後半)
スマートフォンとSNSが生活インフラになった2010年代後半、Skypeは明確な方向性を失いました。
- アプリが重い・遅い
- 連絡先の同期が不便
- SNS的なつながりが希薄
この時期、Skypeは完全に時代の波に取り残され、存在感を失っていきました。
日本でも2011年になりようやくWindows Phoneが登場しますが遅すぎました。2011年と言えばiPhone 4S、サムソンのGalaxy S IIが出た年です。それぞれのアプリストアでは現在まで続くような様々な定番アプリが生まれていました。周回遅れのMicrosoftは「Windows Phoneアプリの開発には9,800円/年の課金が必要」という驚くべき方針を打ち出します。周回遅れのOSの方が開発者からお金を取るのですから誰もアプリを開発しません。エコシステムの設計を間違ってしまったのです。
ゲームチャットとして活用されたSkype
スマートフォン時代には後れを取ったSkypeですが、ビデオゲームのチャットツールとしては存在感を発揮していました。PlayStation PortableやPlayStation Vitaでは公式アプリとして提供されていました。
ゲーム内でテキストチャットをしながら協力プレイをすることが一般的であった当時、Skypeで喋りながら一緒にゲームをできる体験は衝撃でした。ゲーム側で用意する音声・テキストチャットよりもSkypeを使う方が快適で利便性が高かったことから、PCやコンソールでゲームをプレイし、通話はPCのSkypeでというスタイルが定着していました。
しかし2015年にDiscordが登場すると次第にシェアを奪われていきます。Skypeより音質が良く、複数人の通話でもストレスなく会話可能、さらにゲームでは重要な低遅延という性能。2015年の技術で作られた総合的なコミュニケーションツールであるDiscordにSkypeは対抗することができず、ゲームチャット分野においてもその地位を奪われてしまいました。
Teamsの登場とSkypeの終焉(2017〜)
Microsoftは2017年、Skype for Businessの後継としてMicrosoft Teamsを発表。Office 365との強力な連携を武器に、企業向け市場で急成長を遂げます。
Teamsの普及に伴い、Skypeの立ち位置はさらに不明確になります。ビジネスでも個人でも使われなくなり、ついに2025年5月5日、サービス終了を発表するに至りました。
Skypeが示す時代の教訓
Skypeの歴史は、夢の無料国際通話から始まり、ビジネスツールやゲームチャットツールなどとしての活用を経て、スマートフォン・SNS時代に取り残される形で終焉を迎えました。30年にわたるインターネットコミュニケーションの進化を象徴する存在となりそうです。またGoogleが買収しなかったという企業判断を知ると、長期的な企業戦略の重要性を物語っているようにも思います。
Skypeの終焉は、企業が技術革新だけでなく、ユーザー体験・戦略的方向性・時代の潮流にどう向き合うかがいかに重要かを示しているのかもしれません。Microsoftの戦略転換によりTeamsという新たな成功例が生まれた一方で、Skypeという強力なブランドが静かに消えていったことを残念に思います。
それでも当時Skypeが与えたインパクトは忘れがたいものでした。技術が世界を変えていくのだと確信させてくれる素晴らしいサービスでした。
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