Firefoxが消滅する!?米司法省にその命運は託されたのか。

2025.05.262025.06.02

その他

ウェブブラウザのFirefoxが危機的な状況を迎えています。事の発端はアメリカ司法省とGoogleの裁判でした。司法省 VS. Googleの法廷闘争がなぜFirefoxにダメージを与えることになったのでしょうか。

GoogleはアップルのSafariやMozillaのFirefoxの標準検索エンジンをGoogleにしてもらうために、両社に莫大な金額を支払っています。Mozillaには年間4億ドル(約600億円)、アップルには2022年になんと200億ドル(約2.7兆円)を支払っていたことが法廷文書で明らかになっています。

この事実が検索エンジンの公正な競争を妨げているとして裁判となり司法省が勝利。独占状態の解消に向けた協議が行われています。独占状態の解消が契約の打ち切りを意味した場合、Firefoxが危機的状態に陥ります。Mozillaの収益の約90%をFirefoxが稼ぎ出しており、Firefoxの収益のうち約85%をGoogleからの独占契約料金が占めていたからです。

Mozillaは非営利団体

Mozillaは非営利団体です。正確にはMozilla Foundationはオープンソースの価値とインターネットの健全性の擁護を目的とした非営利団体です。司法省の言うところの「市場の公平な競争」を体現したような存在です。

子会社であるMozilla CorporationがFirefoxやThunderbirdの提供を行っています。こちらは企業ですが、Mozillaはそもそもの理念から一般の企業とは異なる存在です。このような企業が「市場の公平性」のために危機に瀕しているというのはまるで寓話のようです。

Mozillaの歴史

インターネットの歴史は1993年のMosaic(モザイク)から始まりました。イリノイ大学の研究室が作ったブラウザです。これを発展させ商用化したものがネットスケープ・ナビゲーターであり、後にオープンソース化されたネットスケープを再構築しようとしたオープンソースプロジェクトがMozillaです。このプロジェクトから生まれたのがFirefoxでありThunderbirdというわけです。

MozillaとGoogle

かつてGoogleはMozillaプロジェクトを支援していました。2008年にChromeをリリースし両社は競合の関係となりましたが、検索エンジンに設定されるための契約金は支払い続けました。当時はMicrosoftのInternet Explorer(IE)が強かった時代です。IE以外のブラウザをGoogleの検索エンジンが独占することが重要でした。

現在のFirefoxのシェアは7%以下に過ぎません。年間4億ドルという金額を払っているのは本当に独占のためだけなのでしょうか。底意はわかりませんが、両社はかつてIT業界の黎明期を生きてきた戦友であることは確かです。

検索エンジンの競争はすでに終わっている

一連のニュースを読んだとき、多くの方がこう思ったのではないでしょうか。そしてこれは事実です。PCにおけるGoogleの世界シェアは約79%、MicrosoftのBingでやっと12.2%です。スマホに至ってはGoogleのシェアは約94%、Yahoo!とBingはそれぞれ1%を切っています。人々の体感どおり、検索エンジンの競争は終了していると言えそうです。

局地的にシェアを持っている検索エンジン

地政学的な背景から、局地的にシェアを持っている検索エンジンは存在します。中国ではBaiduが強くSogouもシェアを持っているようです。ロシアではYandexが、お隣の韓国ではLINEの生みの親であるNaverのNaverエンジンが60%以上のシェアを持っています。ブラウザでも存在感を放つBraveは2023年にGoogle/Bing依存から100%脱却したことを宣言しています。これは光明のひとつかもしれません。日本ではYahoo!の検索もありますが、こちらはGoogleとほぼ同じエンジンを採用しており独自エンジンではありません。米Yahoo!はBingです。

守られるべきはブラウザエンジンの独自性

検索エンジンの競争と同じように、守られるべき競争があります。それはブラウザエンジンの独自性です。どちらもエンジンなのでややこしいのですが、ブラウザエンジンはURLからhtml/css/jsなどのリソースを読み込み、解析してレンダリングする、ブラウザの文字通りエンジンに当たる部分です。

Chrome、Safari、Edge、Firefox以外にもOperaやBraveなど様々なブラウザがあるように感じますが、ブラウザエンジンは下記の3種となっています。

ブラウザエンジンブラウザ備考
Blink(Chromium)Chrome、Edge、Opera、Brave、Vivaldiなど市場の大半がGoogleのエンジン
WebKitSafari(iOS/macOS)アップルが開発したエンジン
GeckoFirefox系のみ(Mozilla、LibreWolf等)唯一の「第三のエンジン」

MozilllaのFirefoxが消滅すればGeckoがなくなり、ブラウザエンジンは完全な寡占状態となります。

ブラウザエンジンの多様性はそんなに重要なのか?

開発者からすればブラウザエンジンは少ない方が助かります。IEの独自仕様に苦しめられてきた制作者であれば誰もが同意することでしょう。一方で、ブラウザエンジンの多様性は、インターネットという公共空間の自由性や健全性に深く関わっています。

Web標準の形骸化・私物化

現在のWeb標準はW3CやWHATWGなどの合意の元に成り立っています。合意形成が必要ということは、そこで仕様の検証が行われ、相互チェック機能が働くことになります。

ブラウザエンジンがこの世に2種しかなくなり、そのいずれも業界のガリバーのものになれば、Web標準という概念が形だけのものとなり、最終的には私物化される恐れが高まります。

どういう悪用が可能か

試しにAとBの2種のブラウザエンジンしかない世界で、自分がそれぞれの経営者だった場合に悪用できそうなことを考えてみます。

●Aだけが使えるAPIを実装。Bを出し抜く。←Web標準が形骸化しており抑止力が効かない
●Bの広告効果を最大限にする施策:広告ブロック完全排除、トラッキング強化
●A/B以外のライバル企業が不利になるよう仕様変更:Cookieに制限を設けるなど
●AIとブラウザを統合し、他のAIをブラウザから使えないようにする
●ブラウザレベルでもフィルタリングをかけて情報を統制する
●プライバシー規約を恣意的に変更する

絶妙なバランスで成り立っている現状

Googleは検索市場の勝者であり、同時にMozillaとGeckoの最大の支援者でもある、という捻じれた構造になっています。検索エンジンの公平性を守ることは重要ですが、これを推し進めれば最も中立性が高いFirefoxとGeckoが消えてしまうかもしれません。大前提として、検索エンジンはすでに独占市場です。

司法省がどのような判断をするかは不透明です。MozillaがGoogleではなくBingと契約すれば済む話でもないように思えます。あるいはAIで覇権を目指す各社がFirefoxの標準搭載AIとなるため契約料をもちかけるかもしれません。今後の動きにも注目です。

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